HOME > 技術論文 >> 19災第3号 県道安田東洋線道路災害復旧工事

技術論文

19災第3号 県道安田東洋線道路災害復旧工事

「ワンデーレスポンス」実験工事に取り組んで
有限会社礒部組 元久卓

はじめに

弊社では、2006年末から「三方良しの公共事業」を標榜し、それに取り組んでいます。それは、「公共建設工事は地域のためにある」「我々の顧客は住民である」という前提のもとに、「発注者と受注者がチームワークで、共通の顧客である住民の安心安全のために、より良いものを、より早くつくる」という考え方です。

本工事では、この理念に基づき、発注者はワンデーレスポンスに取り組み、弊社はクリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント(CCPM)の手法を用いた工程管理を行うことによって、工事によって生ずる地域住民の負担を減らし、地域に貢献する取り組みを行いました。

工事概要

工事箇所は、その年に3度にわたって崩壊し、仮設落石防護柵で応急措置を施していました。工事内容は、県道山手側の斜面を現場吹付法枠工で復旧し、その下端に落石防護柵を施工するというもので、緊急を要するものでした。

当県道は幅員が狭く、周辺で工事を行う際は通行制限(50分止め10分通行可)を実施するのが常態でした。また、工事現場の奥にある2つの地区は、北川村でも指折りの柚子生産地で、その年に1回の出荷が11月初めから12月初旬にかけて最盛期を迎えるため、工事を行うことによって地域住民に多大な負担を強いることは明らかでした。

どのように工事を進めていけば住民の負担を少なくすることができるのか?住民の負担を減らすことによって“社会的コスト”(※)を削減する。これがこの工事の重要なテーマでした。

※社会的コスト
公共工事に伴う社会的な迷惑をコストに換算したもの。
例えば、交通規制による渋滞や迂回、道路工事による歩車道の占拠。騒音振動による精神的な苦痛。河川工事による水質汚濁。

仮設防護柵裏に溜まった土砂
仮設防護柵裏に溜まった土砂

現場付近の柚子畑
現場付近の柚子畑

施工に先立ち、CCPM工程会議を、弊社技術職員と作業員、協力会社、そして発注者の共同で行った結果、出来るか出来ないか50%確率の日数見積りで生み出したプロジェクトバッファ(公開された安全余裕)のほとんどを、11月1日から40日間に充当し、その間工事を中止することを弊社の自主的判断で決定しました。このことは、余裕のある工事を一転させ、非常に厳しい工程にすることになったのですが、敢えてそれにチャレンジすることにし、それを戸別訪問により住民に説明し、理解と協力を仰ぎました。

協力会社・発注者と共同のCCPM工程会議
協力会社・発注者と共同のCCPM工程会議

柚子畑へお邪魔して工事説明
柚子畑へお邪魔して工事説明

工事を開始し、斜面中腹まで溜まっていた崩壊土砂を取り除くと、砂岩層と河岸段丘層の境界から予想を遥かに超える大量の湧水が確認できました。なおかつ河岸段丘層のマトリックスは粘性に乏しい赤土であり、部分的には細砂の箇所もあって、非常に脆く危険な地層であることが判明しました。

そこで私が提案したのは、湧水箇所を囲い込むように、網状管・透水マット・ヤシ系不織布の組み合わせで暗渠排水を施工し、法枠の中詰めは透水性を保つように空石積みにする。さらに最も大量に湧水がある部分には、エキスパンドメタルで製作した蓋をすることにより、将来的に水圧で石積みが崩れたとしても、構造物に致命的な損傷を与えないような構造とすることでした。

この種の小規模災害復旧工事では、切土工は地山への擦り合わせ程度で納める設計が通常であり、本工事でもオーバーハングを切り取るだけの実施設計でした。しかしそれでは、斜面が安定せず、切り取り作業が完了してラス張りを開始した時点で、斜面に亀裂が入ったのを発見しました。そのまま吹付法枠の施工を強行するのは危険すぎるため、切り直し。結局、都合2度の切り直しをすることとなりました。

切取その遅れにより、掘削完了時点で地域住民に約束した中止開始日までの余裕がほとんどなくなり、最大限に効率よく仕事を進めることが必要となりました。監督職員が工事現場に来るには、安芸土木事務所から1時間余りを要するため、立会確認等を効率よく進めなければ工事の進捗に直接影響が及びます。また提案事項への対応遅れがあれば致命的なことになります。

そこでワンデーレスポンスが効果を発揮します。電子メール等を活用してCCPMの「生の工程」、問題点・課題点等の現場情報の共有を図り、発注者から素早い回答を引き出すための提案資料の作成・提出、それに対する監督職員のワンデーレスポンス。これらによりロスのない現場運営を実現することができ、住民との約束を果たすことができました。その過程で地域住民には、「今やっていること」「これからやろうとしていること」を説明しながら工事をしていくことで、理解を得ることができました。

工事を振り返って

ワンデーレスポンス実験工事に取り組んで感じたのは、逆説的になりますが「ワンデーレスポンスは発注者だけがするものではない」という事です。工事を進めていく中で、監督職員は真摯にワンデーレスポンスをするよう努めてくれ、指導もしてくれました。しかし、迅速な回答を発注者に求めようとするなら、施工業者の方にもスムーズに回答ができるような準備が求められます。そうした体制をお互いの間で作ることが重要な事に気づかされました。

おわりに

「礒部組が住民のことをあれだけ考えて仕事をしてくれているのだから、私たちも出来ることがあったら協力する」と、ある方にいわれた言葉が今でも印象に残っています。

これまで道路災害復旧工事の施工に臨む場合、「災害で傷んだ道路を修復しているのだから、地域住民は我慢するのが当たり前」といった考えに陥りがちでしたが、「発注者と受注者がチームワークで共通の顧客である住民のために工事をする」という「三方良しの公共事業」の視点に立つことで、地域貢献が実現できたのだと思います。

地域の皆さん、発注者の方々、協力会社の皆さん、その他関係者の皆さん、大変お世話になりました。この場を借りて感謝します。ありがとうございました。

このページの先頭に戻る