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技術論文

県道安満地福良線 防災・安全交付金工事について

平成30年度高知県優良建設工事施工者表彰

株式会社 龍生 畠中 頼一


1.はじめに

本工事は幡多郡大月町沿岸部の泊浦地区と橘浦地区を結ぶ道路改良工事(L=280m) であり、現道幅員4.0mから8.0mに拡幅する工事である。
この現道は橘浦地区と大月町中心部を結ぶ生活道路であるとともに、現場周辺は優れた景観を形成し、海域にはマグロ養殖場やアオリイカの産卵場が位置している事から、早期整備と周辺環境への配慮が求められた工事である。


2.課題と対策

@軽量盛土工

当現場の施工区間は緩い崩壊土砂が堆積しており、施工時の斜面崩壊が懸念され、モルタル吹付+鉄筋挿入工により斜面を抑えたうえで軽量盛土を施工する設計であったが、現場及び地域環境より下の課題が浮かび上がった。

  • 現場の現道路面に亀裂が確認され、すでに不安定な状況であるため、高さ最大8mの斜面掘削を実施した場合、斜面崩壊が発生することが懸念される。
  • 緩い斜面に対して鉄筋挿入工の削孔を実施した場合、孔壁崩壊が発生し、鉄筋挿入工の定着を確保できない。
  • 現道を時間交通規制での施工となると施工効率が低下し、工程が遅延してしまうとともに、地域の住民生活や漁業活動の車両通行に与える影響が大きい。

これらの課題に対し、

  1. 施工時の斜面崩壊を防ぐ為、掘削と対策工を2段階(上半分を施工して安定を確保したうえで下半分を施工) に分割して施工する逆巻き工法を採用し、施工時の斜面崩壊を防止した。更に、1次掘削では施工効率向上のためロングアームバックホウにて施工し、2次掘削では小型重機と不整地運搬車による小運搬を斜面下で行い、現道を使用しない施工方法に変更した。
    これにより通行車両及び作業員の安全と施工効率を確保することができ、更に2次掘削時の通行規制期間(14日間) を削減できた。
  2. 孔壁安定が可能な二重管足場削孔を検討したが、現道からの足場の組立解体とボーリングマシン移設が必要となり、現道の交通規制が必要となることから、足場の必要ないSD工法を採用した。
    二重管足場削孔からSD工法に変更した事により、足場を必要としない二重管削孔が行え、足場設 置撤去に掛かる日数(約14日) を削減できた。また、現道路面からの作業が無くなった事で、軽量 盛土工全工程における通行規制を、当初予定の1/4程度(約20日) に抑えることができ、苦情も なく漁業活動の車両通行に及ぼす影響を最小限に抑制する事ができた。

A補強土壁工において

  • 谷部下面付近の狭小な場所では大型重機が進入できない。
  • 補強土壁内の横断管渠において、盛土沈下により継手から漏水してしまう。
  • 管渠周辺の補強材施工が煩雑となり、盛土の転圧作業時には十分な締固め作業ができない。

これらの課題に対し、

  1. 部材が大きく(パネル重量1.2t)、大型重機が必要とされるスーパーテールアルメ工法から、多数 アンカー式補強土壁工法を発注者に提案し施工を行った。
    パネル重量(0.35t) が軽量となったことで、@重機を上部に配置しても十分な作業半径を確保A下面部への進入路掘削が不要B補強材の必要長さも1m程度短くでき、掘削量を削減できた。さらに補強材埋設後に補強材のターンバックルで壁面調整が行えることにより、盛土後の変異の修 正に対応できた。
    また安全対策として、昇降階段を設置するとともに、現地は沿岸部からの季節風が強く吹き付ける為、天端調整コンクリートの型枠組足場であるブラケット足場から単管足場に変更し、堅固な足場 となったことで安全施工を実施できた。
  2. 当初、補強土壁壁面内に横断管渠を通し排水する構造であったが、吐け口の位置を補強土壁天端より上に変更し、補強土壁壁面構造物と一体としないこととした。
    これにより盛土沈下による漏水はなくなり、更に補強盛土内に管渠構造物が無いことで十分な盛土転圧が可能となり、補強土壁の品質が向上した。
  3. 盛土材の締固め度を狭小部で使用する小型締固機を用いて試験施工し、転圧回数を定めて十分な締固め度が確保できるように作業員に周知した。
    また、沿岸部からの季節風が強い地域であり、盛土部の法面ポット苗植生工のマルチング材(法面保護材) を設置するピン固定では、強風により端部がめくれてピンが抜ける恐れがあったことから、 竹材を加工したおさえ材を作成し、ピンで固定した。
    これにより、試験施工で定めた転圧回数を遵守することで所定の締固め度が得られ、壁面の傾きや変形の無い補強土壁の施工を行うことができた。 また、ポット苗マルチング材の固定に竹材を加工して添えることで、点固定から線固定に改善し、強風の吹き上がりによるめくれを防止することができた。

B環境保全対策

工事場所沿岸海域では、マグロやブリの養殖が盛んであり、アオリイカ産卵場ともなっている。更に民家が点在していることから、工事による濁水流出および鉄筋挿入工の削孔粉塵が悪影響を及ぼすことが懸念された。

対策として

  • 横断管渠を付替え、更に谷部盛土箇所の濁水対策として、上流部より仮設パイプを接続し、掘削箇所に直接谷水が流れないように処置した。
  • 流末部に沈砂フィルターを設け、泥水を沈殿させた。
  • 鉄筋挿入工の削孔はSD工法のミストポンプにより粉塵の発生を抑制した。

仮設パイプを設置し、上流から谷水を現場内に流さないよう事前に処置し、更に現場内の濁水は沈砂フィルターを通すことで、濁水の直接流出を防ぐことができた。また、削孔で発生する粉塵をミストで抑えることで、季節風による飛散を抑制できた。

C地域社会への貢献及び地域住民とのコミュニケーション・ボランティアの実施

地域住民、地域社会への貢献として下記の通り実施した。

これらの活動により良好な関係の構築と工事への理解を得ることができ、苦情および事故も無く工事を 了することができた。更に日頃の活動に対して、橘浦地区長よりお礼状も頂いた。


3.結びに

工事関係者や地元住民の皆様のご協力をいただき、無事故・無災害で工事を完成することができました。今後の現場監督業務におきましても様々な課題等があると思いますが、この現場での経験を生かすとともに、新技術にも積極的に取り組んでいきたいと思います。